お父さん。
私のお父さん。
典型的な、お父さん。
無口で本を読んでる事が多くて、酔っ払うと陽気になって、ゴルフが好きで、昔は仕事と接待ばかり。
普段は私もほとんど喋らないけど、今日家に帰ったら、友達と飲みに行って帰ってきたとこだった。
酔っ払って陽気になった父は、私がご飯を食べる中、ずっとおしゃべりをしていた。
今日美術館に行ったんだ。外国人がたくさんいた。
仕事大変だなぁ、遅くまで。
ロスジェネか?ロスジェネって最近知ったんだ。本に出てきて分からないからスマホで調べたんだ。
金魚と俺はどっちが先に死ぬのかなぁ。
ハムスターは夜は元気なんだなぁ。
そんな他愛もない話をしていた。
2人で話をするのは久しぶりだった。
別に仲良くはないし、これを機に仲良くもならない。酔っ払ってるから、明日には忘れてしまうだろう。
仕事、ちょっとだけ頑張れよ。
ムリもちょっとだけ。
そう言って父は寝た。
頑張らないくていいとも、頑張れとも言わない微妙な感じ。
ムリするなと言いたいのに、ムリせざるを得ないのを知っているから言わない感じ。
本当は優しいのに、優しさの使い方が分からない人。
私は父のいいところと、母の悪いところを持っている。
姉は父の悪いところと母のいいところを持っている。
私達家族はなぜだかずっと歪だっだ。母のヒステリーに、3人で愚痴ってたこともある。
今は姉が嫁に出たから、父と2人で母のヒステリーに耐えている。けれども2人で母の話をする事はない。暗黙の了解的なもの。
定年してから父は毎日風呂掃除を欠かさない。母は嘘みたいに大袈裟に褒めている。
私は毎日最後にお風呂に入るから、父が掃除をし始めてから、お風呂を上がる前に簡単な掃除をするようになった。
毎日お風呂がピカピカ。
だけどお互い何も言わない。
食器洗いも父の仕事。だから私も台所も綺麗に使う。
父と私は喋らない。
でもお互いそれでいい。父は不器用だし、私も不器用だ。
喧嘩をするほど接したこともない。
私は毎日必ず父に行ってきますを言い、父は行ってらっしゃいを言う。
私達はそうやって生きている。
母から逃れて生きている。怒らせないように。
私と母が喧嘩をして、母をなだめながら、こっそり姉に、私が泣いてるから頼むとメールを送ったりする。
いつも心配ばかりかけているのに、心配の仕方が分からなくて放置してしまう。
父と他愛もない話ができて嬉しかった。
また当分喋らないだろう。
それでいいんだ。
私はなんだかホッとして、涙が出た。
家が怖かったんだ。息子を守らなくちゃ。私が頑張らなくちゃと張りつめていたけど、今日だけ緩んだ。
またどうせ、はりつめる。
私は父と話をしただけで泣いてしまうほど、何に苦しんでいるんだろう。
死ぬのは怖いよ。ばぁちゃんは死にたい死にたい言ってるけど、誰だって怖いよ。長く生きるのも辛いよなぁ。
90を過ぎた祖母の世話をしている父は、時々とても疲れている。私は時々助ける。けれどもお互い何も言わない。
たまには話をしよう。
仲良くはないけど、普通の親子みたいにはなかなかなれないけど。
来年年女だなぁ。ムリしたくてもできなくなってくるから、体大事にしないとなぁ。
お父さんこそ、ムリしないでよって言ってあげればよかったな。
不甲斐ない娘でごめんなさい。
もう少し頑張ってみるよ。